インタビュー Vol.2 光岡尚紀

「このバンドは自分の世界を広げてくれる」


光岡尚紀

 様々なバンドやセッションに参加されている引っ張りダコのベーシストで、今西セクステットでは最年長ということもあり、メンバーからの信頼も篤いミュージシャン。それはインタビューにおいてもまたしかり。たくさん話を聞かせてもらったが、どこを切ってもそのまま記事になるという聞き手からしても有難いインタビュイーだったのだ。

バッキングにソロにバンドの屋台骨を支え続ける光岡さんに新作、今西オリジナル曲、果てはバンドでのベーシストの役割や音楽についての考え方を聞いてきた。

新作『ポートレイト』について

――今西佑介セクステットの新作『ポートレイト』について聞かせて下さい。

ぼくは録音自体が楽しかったのですね。アルバムの制作を重ねるごとにオリジナリティが増している今西佑介の音楽を作品にしていくという作業が面白かったです。

――今西さんが光岡さんをイメージして創られた曲、M5.「Smile Maker」についてはいかがでしょうか?

いやあ、嬉しいですよ!曲調も大好きっ。それも考えて創ってくれたんだと思います。

これ佑介に言ったことあるのか、定かじゃないんですが、あの曲はキーがA♭なんですよ。ぼく、A♭の響きが好きなんです。なんで好きかはわかんないんですけど。この曲いいなあ、と思って後で調べてみたりすると、ほとんどA♭なんですよ。だから、もし、覚えていてくれたんやったら嬉しい。でも、弾くんやったら、Gが一番いいんですけど(笑)

 ――ライヴで光岡さんの演奏を聴いていたら、速弾きもされるしソロの手法とかみていたら、マット・ペンマン(b)とかもっとコンテンポラリーなミュージシャンというイメージがあったんで、曲調に関しては意外だったんですが。

 マット・ペンマン(b)も好きなんですが、レイ・ブラウン(b)が好きなんです。だから、ああいう粋な歌ものという感じの曲調もどストライクですね。

――でも、ソロはレイ・ブラウン(b)じゃないですよね(笑)

 そこは一緒にする必要ないですし、ぼく(オリジナル)じゃなきゃダメじゃないですか。


インタビューでは話が脱線することも。光岡さんとは、しばし90年代のメロコア話で盛り上がったりしました。

ベーシストとして

――「ベーシストとしてバンドを支える」という意味では今西セクステットと他のバンドで違いはありますか?

 うーん、あんまりこのバンドのときはこうしようとかいうのはないんですよ。ただ、今西バンドの場合、ライヴをするときにいろんなところに曲が大きく変化していくんです。それはドラマーのつるちゃん(弦牧)の影響がある。だから、めっちゃタフなときがあって、そういうときはぼくがいわゆる「ベーシスト」として支える。他のバンドで、もしピアノの人やギターの人がそういう役割をしてくれるんだったら、ぼくがもう少し遊びに出ていくということはしますしね。

各バンドによってそういう違いはあるんですが、演奏を始める前からそういうことを決めていることはないですね。もちろん、ビッグ・バンドではしっかり支えますし、ぼくがリーダーのバンドだったら、もう少しいろんなことをやる。だから、そのときのリーダーの意図にちゃんと沿えているかどうか、展開を考える。フィルを一つに入れるにしても、ぼくがそのとき何をしたらいいかを一番に考えています。みんなと一緒になってバァーっと自由に弾いて方がいいのか、真っ直ぐ走っておいた方がいいのか。まあ、結局、それも自分の価値観でしかないんですけどね。

バンドのメンバーについて

――リズム隊としてコンビを組むにあたって、ドラマー弦牧さんに関してはどうですか?

  つるちゃんは唯一無二なんですよ、やっぱり。ときどきバァーとなってしまって、「お前はちゃんとテンポ・キープせんかい!」とかライヴ中に思うこともあるけど、それはバンドを発展させようという意識が強いのかな。それが素晴らしいですね。

 みんながそれでいいんか、というとそうでもないんですけどね。そういうときは、ぼくが冷静に対処してバランスをとる。弦牧はいい爆弾をいっぱいもっていて、バンドを予想もしない方向にもっていってくれる。

今西くんが結成にあたって元々もっていたイメージとしては、現代に存在するジャズ・メッセンジャーズということは念頭においていたと思う。作る曲も現代的なハーモニーが使われていたりするんだけど、そっちだけが前にでていたら今風の平凡なジャズ・バンドになっちゃう。そこで、ジャズ・メッセンジャーズな薫りをだすために、ぼくと弦ちゃんを雇っているんだな、と思うんですけど。今西バンドを聴いてくださっている人にはコンテンポラリーな音楽だと思われているんでしょうけど、ただのそういうバンドにならないように、毎回、考えるから自分にとっても勉強になりますね。単に、自分のリーダー・バンドをやっているだけではそうはならないですよね。今西セクステットには自分の世界を広げてもらったと思っています。


ライブ終了後に横尾さん(tp)と

――今回、個性的なアドリブをされる當村さんにソロのときのバッキングについてどう思われているかというインタビューをしたんですが、逆に光岡さんから當村さんのソロをバッキングしているときはどういう意識でされているんでしょうか?

 うーん、當村は回りの音をめっちゃ聴いているなあ、とは思うんですが、こちらとしては當村っていうより、當村のバッキングしているときの弦牧のバッキングをしているっていう感触の方が強いけど。(笑)

――光岡さんが弾くのをやめて、弦牧さんと當村さん二人だけで走りまくってとんでもない方向に行くって言うのをライヴで何度か観たことがあります(笑)

 ああいうのは弦ちゃんじゃないと中々起きない現象ですよね。いい意味で。だけど、その後、戻るのが辛いんです。どこいっているのかわからんわあ、っていうときもある。

――新作に参加されているピアニストに関しては?

  お二人とも素晴らしいし、ちょっと色が違うから、曲の振り分けとか面白いですよね。ただ、お客さんがぼくをスウィンギーなベーシストだとか言うのはいいんですけど、(バンド・メンバーの)ぼくがあなたはこういう印象だからこうです、とかいうのは好きじゃないんです。というのは、そういうことを言っていくと段々と世界が狭くなっていくんで。得意、不得意だとか、どういうタイプのミュージシャンかというのはあるんですけど、先にそうだからと言ってしまって決めてしまうのはそればっかりになってしまって、面白くないですよね。それは佑介とも話しましたね。


永田さん(pf)と光岡さん

  でも、このバンドのピアニストはめっちゃ大変だと思います。難しいハーモニーもありますし、3管なわけですから、(管楽器とぶつからないように)避けなきゃいけない音もでてくるんで、耳がよくないと。ソロも絶対、回ってくるし。ぼくと弦ちゃんがオールド・スタイルだとすると、3管は現代的。その間に入る役目ですから、大変だと思います。今西バンドってリズム・セクションにはコードしかかれていない譜面が配られるんですけど、前任の加納くんは自分でメロの場所も書き加えていたし、(柳原)由佳ちゃんもやってたと思う。(永田)有吾もやってるんちゃうんかな?

●今西オリジナル曲について

――當村さん(ts)さんのインタビューで今西さんの作曲はポップスの要素がある、って話がでてきたんですが。

 ぼくもそう思います。メロディーがしっかりあるでしょ、今西バンドの一番の武器だと思うんです、ポップでキャッチ―だというのは。前作に収録されている「Touch of springs」とかその色が強いと思います。ただ、単純にそうだというわけではないんです。ハーモニーを紐解くとそうじゃない。3コードで弾いたら、ポップスとして成立するくらいメロディーがキャッチ―でしょ?でも、3管のハーモニーで演奏されると複雑さがでてきてジャズになるんですよ。ああいう、曲ができるのは今西バンドならではっ!今西くんの才能でしょうねえ。

――ソロ回しがしにくい、なんかもあるのでしょうか?

確かにソロもとりにくい。ベース・ラインを弾いていても難しい。ワン・パターンのバッキングになりがちになるから。やっぱりメロディが強く残るんで。コードもコロコロ変わるんですが、劇的に調性が変化するわけではないんです(この点については柳原さんも指摘されているので、そちらのインタビューも参照して欲しい)。どちらかというと、内声(※)だけが動いていく曲という印象があります。

――最後に、新作について

このバンドではアルバムは曲を紹介するという意味が強いと思うんです。まず、録音ではテーマをしっかり演奏するという意思がありますね。CDでは曲を聴いていただいて、それでライヴに来てアドリブを聴きに来て欲しいですね。

(※) 和音の中で高い音と低い音ではなく間の音。この場合だと、例えば、「ド、ファ、ソ、シ」→「ド、ミ、ソ、シ」と変わるコード進行などのことを指す。

<後日談>

 今回、私がお話を聞かせていただいた中で最長時間のインタビューでした。質問すればすぐに反応して下さるし、話すスピードは當村さんの約3倍。ということで、情報量のとても多いインタビューをさせていただきました。おまけに、冒頭で記したようにお話も濃密で、どこをどうとっても即記事になることばかり。なので、再構成に手間取りました。今回はバンドと新作に絞った内容でお送りしましたが、インタビューでは影響を受けた音楽(ジャズだけじゃなく!)や有名なベーシストのフレーズの分析などの話もうかがいました。あと、「みっつんフレーズ」の話も記事にしたかった!

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