「今西バンドのメンバーは少年のような(笑)」
オルタナティブなジャズ・バンドを渡り歩くピアニスト 柳原由佳
LINXやApplejackといったオリジナル曲を演奏するインスト・バンドやヴォーカルとの二人組ユニットなど様々なバンドで活躍するピアニスト、柳原由佳。ソロ・ピアノでもアルバムを2枚もリリースしており、経験豊富なピアニストの参加はきっと今西セクステットにとっても大きなプラスだったに違いない。お話をうかがったのが、今西さんが双頭バンドの一方のリーダーを務める、ボーンオロジーのライヴ終了後ということで、途中から今西さんにもインタビューに参加してもらった。
●バンドの空気感
――今は大阪と東京の両方で活動されているとうかがいましたが。
そうですね。半々ですね。明後日からまた東京で、今は月に1、2回往復しています。だから、大変ですねー。ライヴもまだちょっとずつ増やしている段階です。どんな編成でもオリジナル曲を演奏することが多いでしょうか。そういう演奏が好きなんで、東京でもジャズよりもそっちなんです、やっぱり。
――新加入ということですが、今西セクステットのバンドの雰囲気などの印象はどうでしょうか?
みなさんキャラがたっているじゃないですか?全然気にしていないんですけど、女性が一人だけなんで、なかなか男同士の会話にはねえー。入りたいんですけど(笑)
――ああ、でも今西セクステットって、ちょっと男子校みたいなイメージがありますかね?
そうですね、男子校みたいな感じですよねー。少年のようなバンドというか。光岡さんとかアニキみたいな感じでしょうか。(同じく最年長の)弦牧さんはいじられキャラですけど(笑)バンドの雰囲気がやんちゃだなーと思うこともありますね。
――もう一人のピアニストが永田有吾さんですが、アルバム収録曲をどちらが演奏するという振り分けはお二人でされたとうかがいましたが。
4曲演奏したのですが、アップテンポの曲に関してはブルースと循環(スタンダードでよくみられるコード進行の一つ)の2曲あったので、1曲ずつやろうという話になりました。私が循環を演奏して、永田くんがブルースを演奏しました。最近、ブルースは演奏していなかったので自然と循環を選びました。
●作曲科出身の柳原さんに今西さんのオリジナル曲について訊く
――作曲科出身の柳原さんにうかがいたいのですが、今西さんのオリジナル曲についてはどういう印象でしょうか。
それは関係ないですけど(笑)今西さんはスタンダードもすごく詳しいですよね。コード・チェンジ滑らかなような気がします。大きなコード・チェンジがないから、聴いていて耳心地がいい。Ⅱ-Ⅴとかジャズでよく使われているコード進行を無理に使う、とかされていないですよね。
私は色彩とか風とかそういう色合いで表現する曲が好きなんですけど、たとえば「Musicuriosity」とか、色鮮やか感じですよね。その理由はコード進行を先に考えて作られていないと思うんですけど、そういったところ感じられるんじゃないかと。AABAだとか、ABACだとかいうフォームにもとらわれていないんですよね。着地点もキャッチ―だし、一回聴くと耳に残るという印象ですかね。そういうのは性格からの影響が多分にあると思います。日本人だから日本人が共感できるコード進行とかを選ばれているというのがあるの かもしれないですね。
――演奏していて難しい曲とかありますか?
「Fellowship」ですね。イントロが難しかったです。録音でも何度も練習し直したりしました。そのときにみんなが協力的で、「がんばれがんばれ」とか応援してくれて有難かったですね。
何曲か根を詰めて、今日中にこれは絶対、録らなくちゃいけない曲もあったんですが、みなさんいい雰囲気をつくって下さって、やっぱり上手い人っていい人が多いんだな、って思いました(笑)楽しかったです。
――弦牧さんと光岡さんのリズム隊はどうでしたか。
やんちゃな少年が遊んでいるな、って感じでしたかね(笑)
●今西さんにもインタビューに参加してもらって
――いま、今西さんの曲についてうかがっているんですけど。
柳原: 「Smile Maker」とかキャッチ―ですよね。色彩豊かな曲が多いですよね。
今西: うん、作曲するときにカラフルな曲にしよう、というのは心掛けています。
●メンバーについて
――當村さんのバッキングについてはどうですか?
今西: まあ、キーマンですよね。ぼくとか横尾くんなんかはコンピングしやすいけど、當村くんはただならぬ緊張感があるから、難しいかも。
柳原: 當村さんの場合、まず光岡さんがどう動くかをみます。でも、光岡さんけっこう我が道を行って動じないですよね。
今西: うん、そうですね。
Born FreeにてBoneologyのライブ
――光岡さんは、インタビューでは弦牧さんの反応をみてから動く、って言っていました。弦牧さんが見失わないようにキープすることもあるって。
今西: それはあると思う。
柳原: 弦牧さんは當村さんのこと大好きなんやなあ、と思う。実際、梅田のジャズ・オン・トップで演奏したときにデュオになって10分くらいずっと演奏していたことはある。
今西: 10分は言いすぎやけど(笑)、体感10分くらいだったかも。
柳原: このバンドのフロント3人は全然、キャラが違って面白いですよね。
●好きなピアニストについて
今西: 好きなピアニストとか誰なんですか?
柳原: キース・ジャレットとかアーロン・パークスかな。あっ、ハービー・ハンコックも。
今西: ああ、やっぱりそういう感じか。全然、違うかもしれないけど、ケニー・バロンの新譜とかフレッド・ハーシュとか柳原さんっぽいとこあるなあ、って勝手に思ったりしてました。
柳原: ああ、ハーシュは好きです。めっちゃはまったときもあります。最近はすごい新譜だしてますよね。やっぱり術後ちょっと悟りを開いたところがあるのかも。神々しい感じも好きです。ハーシュの生徒だったブラッド・メルドーも好き。
今西: へー、メルドー好きなんや?なんかあの人の音って冷たい感じするやん?暖かいフレーズ弾いても冷たい感じ。音色がキーンってしている。
柳原: でも、それは研ぎ澄まされた感覚からきているものだったりしません?
今西: そうかも。でも、由佳ちゃんは何弾いても暖かくない?
柳原: ゆるゆるですか(笑)
今西: いやいや、心をこめて弾いてくれている感じがする!
――確かに、ジ・アート・オブ・トリオの頃は厳しい音楽をやっていたと思うんですけど。
柳原: あのトリオは疲れていると私、聴けないときがありますね。
今西: そやね。しんどい時があるよねー。
柳原: お子さん生まれてから変わった気がします。『Highway Rider』(Nonesuch)とか。
今西: はいはいはいはい。ああ、そうなんや。あれ子供生まれてからなんやー。
インタビュー中の今西さんと柳原さん
●最後にドラマー、柳原由佳について
――学生時代にドラムスもされていたと聞いたのですが。
柳原: バークリー音大もドラムスで行こうかと思ったくらい好きです。
今西: 今はやっていないの?
柳原: 今はやっていないです。またやりたいですね。
――いつか、柳原さんのドラムスが聴けるのを楽しみにしています!
<後日談>
インタビュー終了後、今西さんは「全然、アシストできてないっすわー」などと自省しておられましたが、メンバー同士の会話は通常のインタビューと全く内容もノリも変わるので面白かったです。たとえば、好きなミュージシャンを尋ねるということの嫌味のなさや、その後の会話がスルスルとでてくるのは同じレベルの仲の良いミュージシャンだから聞くことができたんじゃないかな?と思いました。